OTHER2024.10.23
1stアルバム『For Teen』オフィシャルライナーノーツ公開
“8才の天才少女ドラマー”と称され、世界で話題となった日から6年。14才になったドラマー・YOYOKAは、新天地・アメリカから初のアルバムを発表した。
北海道・石狩市に生まれた相馬世世歌は、音楽経験者である両親のもと1才半からドラムに触れ、4才にはライブや、家族バンド「かねあいよよか」として音楽活動をスタートさせた。そして来たる2018年、女性ドラマーの国際コンテスト〈Hit Like A Girl〉の18歳以下の部にて、週間チャンピオンを受賞。Vimeoで公開されたLed Zeppelin「Good Times Bad Times」のドラムカヴァー動画は、数々の海外大手メディアに取り上げられ、一夜にして彼女の元には世界からリアクションが殺到。少女の小さな身体から繰り出されるパワフルでテクニカルなドラミングに、世界中のハードロック・ファンから絶賛の声が上がり、本家のフロントマン、ロバート・プラントまでも彼女のプレイを賞賛した。
類稀なる才能、年齢を超越したドラムスキルは国内外で話題となり、CM、雑誌、音楽フェスティバル、ファッションイベントなど多岐に渡る出演に、ドラムメーカーのPearl と史上最年少でエンドース契約、その他Zildjian、VIC FIRTHともエンドース契約を結ぶなど、飛躍的な活動を見せた天才少女は、より世界的な活動に力を入れるべく、渡米を決意。パンデミックの困難を乗り越え、2022年8月に、取得が難しいといわれるアーティストビザを若干12才で取得し、アメリカへ拠点を移した。
異国の地だろうと怖じけず、積極的にライブを重ね、ミュージシャンとして腕を磨いてきたYOYOKA。そんな彼女が新天地で掲げた第一の目標が、米国のアーティストと共に、初のフルアルバムを制作することだった。エージェントやレーベルには所属せず、地道な活動で培った経験と人脈をもとに制作を開始し、ついに完成したのが、本作『For Teen』である。
本作を一聴すれば、誰しもこのドラムを演奏しているのが14才の少女であることなど、つい忘れてしまうはずだ。自身のルーツであるハードロックと、アメリカのアート学校に通う中で“面白さを知った”というジャズ、フュージョンとの邂逅は、彼女のプレイスタイルの幅を確実に広げ、「Origin」のような推進力をキープしながら細やかな手捌きを繰り出すジャジーなドラムから、「Sky Blue」をはじめとしたジョン・ボーナムを想起させる力強くロックなプレイまで、見事に再現してみせる。ヴォーカルやギターソロのようにメロディを歌うようなフレージング、ムードを一層盛り上げるフィルの入れ込みまで丁寧に施される様からは、年齢という色眼鏡などなしに、一プロドラマーとしてのポテンシャルの高さを感じざるを得ない。
そんな彼女のプレイを支えたのが、豪華製作陣だ。ジェフ・ベックやホイットニー・ヒューストンなどを手掛けてきた世界的プロデューサーであり、自身もドラマーであるナラダ・マイケル・ウォルデンやロック界のレジェンド的ベーシスト、マルコ・メンドーサ、Jamiroquaiのバンドメンバーであるデリック・マッケンジー、ポール・ターナー、マット・ジョンソン、元Dream Theaterのデレク・シェリニアンといった大御所から、Rage Against the Machineのトム・モレロの息子でギタリストのローマン・モレロら才能ある若きミュージシャンまでボーダーレスな面々が参加。彼らとの親和性から生まれる極上のグルーヴを武器に、60~70年代へのリスペクトを感じさせるハードロックやジャズ・フュージョンの楽曲から、ポップス、プログレ、ファンク、さらには西海岸の香りを漂わせるトロピカルなナンバーまで、ジャンルレスな楽曲に挑戦している。
中でも、世界最年少となる12才で米バークリー音楽大学に入学したジャズピアニスト・Ai Furusatoとコラボレーションした「Changes」、ソロデビュー曲「Sparkling」のデュオヴァージョンは圧巻だ。ハイテンポで濃厚に絡み合っていく天才少女たちによる白熱のプレイは、同じ作品を作るという愛のセッションでありながら、互いのベストを出し尽くすバトルのような熱量を孕んでいる。
YOYOKAはほとんどの楽曲の作曲に参加し、「Home Beastie」では弟・Shidoが歌い、YOYOKAがベースとギターも担当するという姉弟タッグで制作。また、「Keychain」では自らヴォーカルを担当。電子的なビートに幼さが残る無垢な歌声がエフェクト混じりに合わさるダウナーなテイストで、他楽曲のどれとも異なる彼女の新しい一面を垣間見ることができるだろう。
アメリカで培った音楽体験、多彩なアーティストとのコラボレーション、アメリカという地から世界に、自分に挑戦したいという確固たる決意。それらが14曲にみっちりと凝縮され、YOYOKAという天才少女の確かな実力を残すとともに、彼女に秘められたるさらなる可能性を引き出した、記念すべきデビューアルバム。ここからまた、天才少女はまたひとつ、世界へ羽ばたいてゆく。
文 / 宮谷行美